クラウド活用が企業ITの標準となった今、各社はAzureやGCPなど複数の選択肢を比較検討し、自社に最適なプラットフォームを選ぶ必要があります。そんな中、AWSは豊富なサービスラインアップや柔軟な料金体系、グローバル規模のインフラなど、多角的な強みを持ち続けています。本記事では、競合クラウド(Azure・GCP)からAWSに移行することで得られるメリットを、コスト最適化・性能・セキュリティ・可用性といった観点から詳しく解説します。
AWSのメリット
コスト最適化
オンデマンド vs リザーブド vs スポット
AWSの柔軟な料金モデルにより、使った分だけ払うオンデマンド、1~3年の利用コミットで割引を受けるリザーブドインスタンス、そして余剰リソースを活用するスポットインスタンスから選択できます。オンデマンドは短期や予測困難なワークロード向けで柔軟性が高く、スポットインスタンスは最大90%割安ですが途中で停止される可能性があります。リザーブドインスタンスは最大72%のコスト削減が可能で高い可用性保証がありますが、長期契約が必要です。これらを組み合わせ、Savings Plans(長期割引プラン)なども活用することでコスト最適化を図れます。
Savings PlansとCost Explorer
AWSでは長期利用の割引としてSavings Plansも提供されており、オンデマンド料金に対して一定割合の割引が適用されます。Cost Explorerなどのツールを使えば、使用状況の分析や将来予測が可能で、リザーブドインスタンスやSavings Plansの最適な組み合わせを推薦してくれます。これにより、クラウド利用コストの透明性を高め、無駄を削減する施策を講じやすくなります。
パフォーマンスとスケーラビリティの向上
高性能ネットワーク
AWSは世界中に広大なインフラを持ち、Amazon CloudFrontなどのCDNで最適化されたルーティングを提供しています。その結果、ネットワークスループットが主要クラウド中で最速とのベンチマーク報告があり、大規模サービスでも低遅延を実現できます。
自動スケーリング
AWSは需要に応じた自動スケーリング機能が充実しており、EC2オートスケーリンググループやAWS Lambdaのスケールアウト、DynamoDBのオンデマンドキャパシティなど、リソースを瞬時に増減できる仕組みが揃っています。例えばEC2のオートスケーリングでは、CPU利用率などのメトリクスに応じてインスタンス数を自動調整し、ピーク時の性能確保とアイドル時のコスト削減を両立できます。AWSの大規模インフラによって必要なだけリソースを即座に追加できるため、急激なトラフィック増加にも耐えられます。
高性能サービス
AWSが提供する各種サービス自体も高パフォーマンスです。たとえばNoSQLデータベースのAmazon DynamoDBはいかなる規模でも一桁ミリ秒の低レイテンシを実現するよう設計されており、高スループットなアプリケーションでも安定した応答時間を保ちます。またオブジェクトストレージのAmazon S3は99.999999999%(11ナイン)の耐久性と高い性能を持ち、大量データの読み書きでもスループットを確保できます。
セキュリティとコンプライアンスの強み
多層的なセキュリティ: AWSはクラウドセキュリティにおいて「共有責任モデル」を採用し、ユーザーとAWS双方でセキュリティを担保します。サービスごとに暗号化や認証機能が組み込まれており、例えばDynamoDBではデータは保存時に自動暗号化され、KMS(Key Management Service)による鍵管理も統合されています。また通信もTLSなどで保護され、安全なデータの取り扱いが可能です。
コンプライアンス認証
AWSは143以上のセキュリティ基準・コンプライアンス認証をサポートしており、PCI-DSS、HIPAA、FedRAMP、GDPRなど業界規制への対応実績があります。第三者監査による認証を定期的に取得・更新しており、金融・医療・政府機関など高度なコンプライアンス要件を持つ顧客でもAWSのクラウド基盤を信頼して利用できます。これら認証取得済みのインフラを利用することで、自社で一から準拠環境を構築するよりも容易に規制対応が進められます。
セキュリティ管理ツール
AWSにはセキュリティ管理サービスが豊富に用意されています。アクセス制御のIAM、ネットワークレベルのファイアウォールやセキュリティグループ、構成変更を追跡するAWS Config、脅威検出のAmazon GuardDuty、暗号鍵管理のKMSなど、セキュリティ統制を強化するツールが統合されています。例えばAWS Configを有効にすると、リソースの設定変更を継続的にモニタリングし、不適切な変更やポリシー違反を検知して通知できます。これらによりセキュリティインシデントの予防や検出が自動化され、クラウド環境全体のセキュリティレベル向上に寄与します。
可用性と災害復旧の優位性
マルチAZによる高可用性
AWSは全てのリージョン(地域)に複数のアベイラビリティゾーン(AZ)を設けています。各AZは独立した電源・空調・ネットワークを持つデータセンター群で、例えば東京リージョンでは3つのAZが存在します。マルチAZ構成を取ることで、単一データセンター障害からサービスを保護し、可用性SLA 99.99%相当の高稼働率を実現できます。AWSのサービス(RDSやEC2の特定インスタンスなど)はオプションでマルチAZ配置をサポートしており、プライマリと代替系にデータを同期して自動フェイルオーバーする仕組みを利用可能です。
広域なリージョン展開
AWSは現在、世界で33のリージョンと105以上のAZを展開しており、他社と比べて最も広範な地理的カバレッジを提供しています。またエッジロケーション(CDN等の拠点)は450箇所以上に及び、ユーザーに近い場所でサービス提供が可能です。この広域ネットワークにより、アプリケーションを複数地域にまたがってデプロイし、リージョン全体の障害(大規模災害や停電など)にも耐えうるDR(Disaster Recovery)構成を組むことができます。例えば本番環境を米国東部と西ヨーロッパの2リージョンに冗長化し、片方に障害が起きても他方で業務を継続するといった設計が容易です。AWSの大規模なインフラはマルチリージョンでのデータバックアップと迅速な復旧にも強みがあります。
サービス固有の耐久性
AWS各サービス自体も高可用性を考慮して設計されています。代表的なAmazon S3はデフォルトでデータを3つのAZに冗長保存しており、一つのAZが完全に機能停止してもデータ消失やサービス停止を防ぎます。S3は年間99.99%の可用性SLAも提示され、実運用で非常に高い耐障害性を示しています。他にも、RDS(リレーショナルDB)のマルチAZ配置や、グローバルにレプリケーション可能なDynamoDB Global Tables、数クリックで他リージョンに復旧環境を用意できるCloudEndure Disaster Recoveryなど、AWS特有の災害復旧ソリューションが多数提供されています。これらを活用することで、オンプレミスで自前構築するより容易に事業継続計画(BCP)の強化が可能です。
AWS特有のサービスの強み
サーバーレス(AWS Lambdaなど)
AWS Lambdaはイベント駆動型で自動スケーリングするサーバーレス実行環境で、コードをアップロードするだけでバックエンドの管理不要に関数を実行できます。競合のAzure FunctionsやGoogle Cloud Functionsと比べても歴史が長く成熟したサービスであり、市場でも最も人気の高いFaaS(Function as a Service)と評価されています。Lambdaはコールドスタート時間が短い(業界分析では平均1秒未満)ため応答が速く、またプロビジョンドコンカレンシー機能で起動遅延を無くすこともできます。大規模なイベントにも自動で水平スケールし、ピーク負荷時にも手動介入なく処理を継続可能です。さらにLambdaは他のAWSサービス(S3イベント、SNS通知、API Gatewayなど)とシームレスに連携し、疎結合でスケーラブルなアーキテクチャを構築しやすい点が強みです。
ストレージ(Amazon S3)
Amazon S3はオブジェクトストレージサービスで、事実上無制限のスケーラビリティと業界最高水準の耐久性を提供します。先述の通り11ナインの耐久性を持ち、データ喪失の可能性は極めて低いです。また標準で高いスループットと低レイテンシを発揮しつつ、データアクセス頻度に応じてストレージクラスを変更することでコスト最適化もできます。例えば長期間アクセスしないデータはGlacier Deep Archiveに自動移行して大幅にコスト削減し、必要になれば数時間で取り出すといったライフサイクル管理が可能です。S3は静的ウェブホスティングやビッグデータ解析のデータレイク基盤など多用途に利用され、AWSを代表するサービスの一つです。
データベース(Amazon DynamoDBなど)
AWSはマネージドデータベースサービスも幅広く提供しており、用途に応じた選択肢があります。特にAmazon DynamoDBはフルマネージドNoSQLデータベースとして、任意のスケールで一貫した高速(数ミリ秒)応答を実現するよう設計されています。アプリケーションの規模が急拡大してもパフォーマンスが低下しないよう内部で自動シャーディングと負荷分散を行っており、開発者はスループット(キャパシティ)の指定をするだけで済みます。またDynamoDBはサーバーレスアーキテクチャとも親和性が高く、LambdaやAPI Gatewayと組み合わせて完全マネージドなバックエンドを構築できます。他にもAWS特有のデータベースとして、超低レイテンシのインメモリデータストアAmazon ElastiCache、ペタバイト級のデータウェアハウスRedshift、完全マネージドな時系列データベースAmazon Timestreamなどがあり、ユースケースに合わせて選べる点もAWSの強みです。
コンテナ・オーケストレーション(Amazon EKSなど)
AWSはコンテナ関連サービスも充実しています。Amazon EKSはKubernetesのマネージドサービスで、コントロールプレーンの可用性確保やバージョン管理をAWS側が担い、ユーザーはワーカーノードの管理に集中できます。EKSは他クラウドのKubernetesサービスと比べてもアップデートの対応が早く、またAWSのIAMやVPCと統合されているためセキュアでシームレスなKubernetes運用が可能です。さらにサーバーレスなコンテナ実行環境AWS Fargateを使えば、EC2インスタンスを意識せずコンテナを動かせます。これらAWSのコンテナサービスは、レガシーなVMワークロードから最新のマイクロサービスまで幅広くカバーし、移行後のアプリケーションモダナイズを支援します。
ハイブリッドクラウドやマルチクラウド対応
AWSのハイブリッドソリューション
AWSはクラウドだけでなくオンプレミスや他クラウドを含めた一貫運用も視野に入れています。AWS OutpostsはAWSのハードウェアとサービスをオンプレミス環境に拡張するもので、自社データセンター内でEC2やS3等のAWSサービスを利用できます。また、AWSはマルチクラウド管理にも注力しており、AWS Systems ManagerやCloudWatchを用いることで他クラウド上のリソースも含めた統合監視・運用が可能です。例えばSystems Managerを使えば、AWS外のサーバーにもエージェントを入れてパッチ適用や設定管理を一元化できます。このようにAWSはハイブリッドクラウド戦略を支えるサービス群(Storage GatewayによるオンプレとS3の連携、Active Directory ServiceやVMware Cloud on AWS等)を提供し、既存環境を活かしつつクラウド活用を進める道筋を用意しています。
マルチクラウド戦略
近年は一社のクラウドにロックインしないマルチクラウド運用を採用する企業も増えています。AWSは他クラウドとの連携自体を阻むことはなく、むしろAWS上で他クラウド環境と接続するためのツールも提供しています。例えばAWS Transit Gatewayはオンプレや他クラウドとのネットワーク接続ハブとして機能し、AzureやGCPのネットワークをVPNまたはDirect Connect連携経由でつなぐことができます。またAWSのデータ分析基盤に他クラウドのデータを取り込む仕組み(Athenaでの外部データソース参照等)もあり、異なるクラウド間でデータやワークロードを連携させることが可能です。AWS自身もマルチクラウド管理サービスを強化しており、統合ダッシュボードやポリシー適用で複数クラウドを横断的に制御する試みが進んでいます。ハイブリッド・マルチクラウドに積極的なAzureに比べ歴史は浅いものの、AWSも企業の多様なクラウド戦略に対応できる基盤を整えつつあります。
サポート体制とエコシステム
AWSサポートプラン
AWSは充実したテクニカルサポートを提供しており、ビジネス規模や重要度に応じて数種類のサポートプラン(開発者向け、ビジネス、エンタープライズ)から選べます。エンタープライズサポートでは24/7の技術対応や専任担当(TAM)の配置、アーキテクチャレビューなど手厚いサービスが受けられます。ただし高度なサポートは有償であり、中小企業にとっては費用が高めになる点は注意が必要です。一方でAWSはオンラインのドキュメントやホワイトペーパー、ベストプラクティス集が非常に豊富で、コミュニティフォーラム(re:Postなど)も活発です。そのため自力で調べて解決できる情報資源が多く、新規ユーザーでも公式資料を頼りに学習を進めやすい環境があります。
パートナーエコシステム
AWSは全世界で16,000社以上のパートナーを擁する大規模なエコシステムを形成しています。コンサルティング企業やSIer、ソフトウェアベンダー、Managed Service Providerなど、多様なAPN(AWS Partner Network)参加企業がAWS上のソリューション提供や導入支援を行っています。例えばデータ分析に強いパートナー企業に依頼してAWS上でBI基盤を構築したり、AWSの認定を持つエンジニアに移行プロジェクトを支援してもらうことが容易にできます。公式のマーケットプレイスではサードパーティ製のセキュリティ、モニタリング、データベース製品などがワンクリックでデプロイ可能で、AWS環境に付加価値サービスを簡単に組み込めます。このような巨大エコシステムにより、最新のクラウド技術や知見が集約されており、ユーザー企業は自社リソースだけに頼らずともAWS専門家の力を借りて迅速にクラウド活用を進められるメリットがあります。
Azure・GCPとの比較
価格モデルの違い
基本料金体系
AWS・Azure・GCPはいずれも従量課金(Pay-as-you-go)が基本で、使ったリソースの量に応じて課金されます。加えて、各社とも長期利用割引を用意しており、AWS/AzureではリザーブドインスタンスやSavings Plansといった利用コミットによる割引があります。GCPも同様に、継続利用による**サステインドユース割引(SUDs)や長期契約のコミットメント割引(CUDs)**を提供しています。つまり大枠ではどのクラウドもオンデマンド課金と長期割引の二軸がありますが、割引率や適用条件に違いがあります。
料金水準
一般的にAzureはオンデマンド料金が3社中で最も割安とされ、AWSは中間、GCPはやや高めという分析があります。特に既存Microsoft製品を使っている企業は、Azure上でWindowsサーバーやSQLサーバーのライセンス持ち込み(Azure Hybrid Benefit)を適用できるため、大幅にコストを下げられます。逆にLinux主体のワークロードやOSSデータベースでは各社大差ない価格設定の場合も多く、用途によってどのクラウドが安いかは異なります。3社とも無料利用枠や費用試算ツール(AWS Pricing Calculator等)を提供しているので、具体的な構成で比較検討するとよいでしょう。
割引オプションの特色
AWSのリザーブドインスタンスは1年・3年契約で大きな割引が得られ、Compute Savings PlanはEC2だけでなくFargateやLambdaにも柔軟に適用できます。Azureはハイブリッド特典によりオンプレミスのWindows/SQLライセンスを活かせ、さらに3年予約のReserved VM Instancesで大幅割引が可能です。GCPは1年・3年のCUDsの他、リソース継続使用時に自動適用されるSUDsが特徴で、例えばCompute Engineを1ヶ月間動かし続けると自動的に割引率が高まります。加えて、GCPは一部サービスで秒課金・分課金の柔軟性が高く、ミリ単位で最適化する用途では有利なケースもあります。価格モデル全体では3社とも複雑さは似通っており、自社の利用パターンに合致する割引を見極めることが重要です。
主要なサービスの機能比較
サービス数と範囲
AWSはサービス提供数で他を圧倒しており、243以上のクラウドサービスを展開しています。計算、ストレージ、ネットワーク、データベース、分析、AI、IoT、ロボティクスまでカテゴリも多岐にわたります。Azureもカテゴリは幅広く、特にエンタープライズ向け機能(Active Directory連携やOffice製品との統合など)が充実しています。ただし提供サービス総数ではAWSに一歩譲ります。またGCPは提供サービスが100強と絞られていますが、Google社内の技術(ビッグデータ解析や機械学習)を活かした特徴的なサービスが多いです。
コンピュート
仮想サーバー(IaaS)の比較では、AWSのEC2はインスタンスタイプの選択肢が最も多く、独自チップ(Graviton)による高性能/低コストなタイプも選べます。AzureのVMもWindows環境との親和性が高く、大規模なSAP HANA認定インスタンスなど企業向けスペックも揃います。GCPのCompute Engineはカスタムマシンタイプ機能でCPUやメモリを自由に組み合わせられる点がユニークです。またコンテナ実行では、AWSはECS/EKS、AzureはAKS、GCPはGKEと各社Kubernetesサービスがありますが、GCPのGKEはGoogleが社内サービスで培ったオーケストレーション技術を反映しており、コンテナワークロードに強いとの評もあります。
ストレージ/データベース
AWSのS3はオブジェクトストレージのデファクトスタンダードで、AzureのBlob StorageやGCPのCloud Storageと比較してもエコシステムが大きく機能も豊富です。ブロックストレージでは各社SSD対応や自動スナップショットなど機能差は小さいですが、AWSはIOPSプロビジョンド型(io2)など細かな性能調整ができます。データベース分野ではAzureはSQL Server系サービス(Azure SQL Databaseなど)が強みで、既存MS SQLの移行が容易です。GCPはCloud Spannerのようにグローバル分散ACIDトランザクションデータベースといった先進サービスがあります。一方AWSはRDSで主要な商用・OSSデータベースを網羅し、DynamoDBやAuroraといった高スケーラビリティDBも提供。機能面ではAWSが総合力で優れ、AzureはMS技術との親和性、GCPは尖ったデータサービスに特徴があると言えます。
サーバーレス/アプリ実行
AWS Lambdaは前述の通り実績豊富で機能拡張(Lambda Extensionsなど)も進んでいます。Azure Functionsもほぼ同等の機能を持ち、開発言語やトリガーのサポートは似ていますが、スケールの上限や実行時間(従量課金プランでは最大5分)に違いがあります。Lambdaは15分まで実行可能で、一度に割り当てられるメモリ量も10GB以上と大きいため、重いバッチ処理などではAWSの方が扱いやすいでしょう。コンテナ化された関数実行も3社で提供されています(AWSはLambdaコンテナイメージ対応、AzureはContainer Instances、GCPはCloud Run)。またイベント駆動基盤では、AWSのSNS/SQSやEventBridge、AzureのService Bus/Event Grid、GCPのPub/Subなどいずれもメッセージングサービスがあり、機能は概ね類似していますが、細かな使い勝手や統合性で選好が分かれます。
グローバル展開とリージョン比較
リージョン数
2025年時点で、Azureは60以上のリージョン展開で最も多く、AWSは33リージョン、GCPは40リージョン程度です。Azureは特に欧州やアジアでリージョン開設が積極的で、日本国内でも東日本/西日本に加え中央(中部)リージョンも予定されています。一方AWSは南米や中東、アフリカなど新規リージョン開設を進めており、引き続き拡大中です。GCPはリージョン数こそ中間ですが、Google独自の高速ネットワークとエッジキャッシュを武器に、比較的少ないリージョンでも高性能を発揮する戦略です。
アベイラビリティゾーン
リージョン内のデータセンター分散度合いとして、AWSとAzureはいずれも基本3つ以上のAZ/ゾーンを持ちます。Azureはリージョンによりゾーン未提供の所も一部ありますが、主要リージョンでは3つのAZを提供し堅牢性を確保しています。AWSは全リージョンが複数AZで設計されており、一部大規模リージョンでは4以上のAZがあります。GCPも2~3ゾーン/リージョンを持ちAZ概念は同様です。AZの隔離設計(距離や設備の独立性)についてはAWSは早くから確立しており信頼性が高いと言われます。Azureも追随していますが、リージョンによっては隣接性が近いケースも指摘されています。とはいえ大きな差異はなく、クラウド間で可用性構成の考え方は共通です。
ネットワークとエッジ
AWSはCloudFrontによるCDNと自前の大規模バックボーンで低遅延を実現しており、世界225箇所以上のエッジロケーションでコンテンツ配信しています。Azureは自社のエッジネットワークと提携CDNを組み合わせ、地域内での高速通信やDDoS緩和に強みがあります。GCPはGoogleのグローバルファイバーネットワークを活かし、独自CDNこそありませんが各リージョン間の高速接続とAnycastベースの負荷分散で遜色ない性能を出します。一般にAWSはネットワーク帯域・スループットで有利との評価がありますが、Azure・GCPも大規模投資で差を埋めつつあります。グローバルなサービス配信では、AWS/Azureは各国多数のリージョン展開ゆえにユーザーに近い場所を選びやすく、GCPはリージョン数が少ない代わりにエッジキャッシュなどで補っています。
機械学習やデータ分析分野での違い
AI/MLサービスの充実度
Azureは近年AI分野に注力しており、Azure Machine LearningやCognitive Servicesなど包括的なAIサービス群を提供します。Azure MLはドラッグ&ドロップでモデル構築ができるスタジオ環境やMLOps機能が整っており、企業のデータサイエンスチームに評価されています。GCPはもともとTensorFlowを生んだGoogleだけあり、機械学習基盤としての優位性が際立ちます。特に大規模分散学習向けのTPU(Tensor Processing Unit)やオートML製品群があり、高度なMLワークロードに強いと言われます。AWSもSageMakerという機械学習プラットフォームを提供し、データ準備からモデルデプロイ・推論までフルマネージドでカバーしていますが、Azure/GCPに比べるとやや専門家向けで自由度が高い傾向です。
データ解析とビッグデータ
GCPはBigQueryというサーバーレスなデータウェアハウスで有名で、ペタバイト級のデータに対してSQLクエリを高速実行できる点が人気です。ビッグデータ処理ではGoogle発のApache Beamに基づくDataflowや、マネージドSparkのDataprocなども揃え、エコシステムが充実しています。AzureはSynapse AnalyticsがデータウェアハウスとSparkを統合提供し、Power BIとの連携でエンドツーエンドの分析を構築できます。AWSはRedshiftが従来から定番のDWHですが、近年はAthena(サーバーレスSQL)やEMR(マネージドHadoop/Spark)、Glue(ETL)など多様な分析手段を提供しています。機械学習においては、GCPが最先端研究の実装が早い(新しいモデルのAPI提供など)一方、AWSは企業利用に耐えるエンドツーエンドの堅牢性や他サービスとの統合が強みです。例えばSageMakerはモデルのバージョン管理やデプロイ、自動スケーリングまで含めた総合サービスであり、大規模組織での機械学習運用に適しています。
エコシステムとコミュニティ
機械学習コミュニティではTensorFlowやPyTorch利用者が多く、これらフレームワークは3社いずれのクラウド上でも動作します。ただしチューニング済み環境や付加サービスに違いがあり、GCPはAI Platform、AWSはDeep Learning AMIやSageMakerビルトインアルゴリズム、AzureはML Opsの連携で差別化しています。データ分析コミュニティでは、AWSは最もユーザー数が多くドキュメントも豊富ですが、GCPもデータサイエンティストからの支持が厚いです。総じてAWSはオールマイティ、Azureは企業の業務アプリ直結型、GCPはデータサイエンス特化型との評価がなされることが多いです。
企業向け機能とサポートの比較
エンタープライズ統合
AzureはMicrosoft製品とのシームレスな連携において他の追随を許しません。オンプレミスのActive DirectoryとAzure ADの統合、Office 365やDynamics 365とのデータ連携、Visual Studioからのデプロイの容易さなど、既存MS資産を活かしたクラウド化がしやすい設計です。AWSもMicrosoftワークロードを動かす機能はありますが、Azureほどの親和性はなく、企業が長年培ったWindows中心のIT基盤を移す際にAzureが選ばれやすい傾向があります。
ハイブリッドクラウド対応
企業システムは一部をオンプレミスに残すケースも多く、その点でAzureはハイブリッド戦略をリードしています。Azure StackやArcによって自社データセンターや他クラウド上でもAzureサービスを利用でき、オンプレ・クラウド両環境を単一の管理下に置きやすいです。AWSもOutpostsやSnow Familyなどでハイブリッド対応を強化していますが、長年Windowsサーバーを扱ってきたMicrosoftの方が企業システムとの親和性で一日の長があります。GCPはハイブリッド支援策が限定的で、Anthos(マルチクラウドのKubernetes管理)など一部領域にとどまっています。
サポートとパートナー
MicrosoftとAWSはいずれも大企業向けサポート体制を確立していますが、そのアプローチは異なります。Microsoftは既存の契約に組み込まれた形でサポートを提供することが多く、ソフトウェアからクラウドまで包括した支援が受けられます。AWSは前述のとおり段階的な有償サポート体系で、必要に応じ手厚いサポートを追加購入する形です。パートナー企業に関しては、AWS・Azureともに非常に多く存在し、移行や運用を支えるサービスを提供しています。GCPは市場シェアがまだ小さいこともあり、エンタープライズ向け支援体制やパートナー数で二社に劣ります。そのため、大企業がメインフレーム級のシステムをクラウド化する場合など、現状ではAWSかAzureが選択されるケースが大半です。
ライセンスと移行容易性
既存システムのクラウド移行ではソフトウェアライセンスの扱いが問題になります。AzureはWindows ServerやSQL Serverのライセンスを持ち込むことでクラウド料金を安くでき、これがAzure移行の大きな経済的メリットとなっています。AWSでもMicrosoft製品を動かせますが、ライセンス再購入が必要な場合が多く割高です。オープンソース系についてはどのクラウドでも制約なく使えますが、Oracle製品など他社プロダクトではサポート認定の有無がクラウド選定に影響することもあります(Oracle Cloud以外ではライセンス制限がある等)。このように、企業の既存IT資産との親和性・継承性という観点ではAzureが有利な局面が多く、AWSはクラウドネイティブに一から構築する場合や、マルチOS/マルチベンダー環境で柔軟性を求める場合に強みがあると言えます。
まとめ
クラウド市場をリードするAWSは、幅広いサービス群と世界的なインフラ展開を武器に、多様なワークロードに対応できる柔軟性を備えています。従量課金やリザーブドインスタンス、Savings Plansなどを駆使することで、コストを最適化しながら高いパフォーマンスと信頼性を確保できる点が最大の強みです。さらにセキュリティやコンプライアンスの取り組みも進んでおり、企業が求める要件に対して包括的にサポートします。
一方で、AzureやGCPにもそれぞれ優位性があり、自社の業務や既存ライセンスとの相性を考慮することが重要です。しかし、オンプレミスやマルチクラウド連携を含め、多彩な機能とパートナーエコシステムを提供するAWSは、総合力の高さから多くの企業が選択するプラットフォームであり続けています。各社の特徴を比較したうえで、自社に最適なクラウド移行戦略を検討する際、AWSが提供する強力なメリットは依然として大きな魅力となるでしょう。